NATUREBEAR
「ガイアの時間を学ぶ」
フリーマン・ダイソン

もちろん宗教は、人生にとって
この上もなく重要なものです。
ただし、それを科学と混同してはいけません。
宗教と科学は、
一つの宇宙をそれぞれ異なった窓から
異なった角度で見る見方なのです。
二つを同時に見ることはできません。
時に宗教的に、時に科学的にと、
分けて見る必要があります。
これはガイアについても同じことで、
そこにも宗教的な側面と科学的な側面があり、
それぞれが別々に働きながら、
協力しあっているのです。
人類の未来を考える時、数千年の単位で考える方が
ずっと刺激的です。
どうなるかを断言することはできませんが、
想像することはできます。
この小さな星にひしめき合っている
より、この星を美しいままに保つため、そしてほかの
全ての生物たちのためにも、
人類は宇宙に移住してゆくのが
一番いいと思います。
そしてそれは数千年内に実現されると
思います。
脳の働きが科学的にも分かり始めた今、
人間の心は急速に進化して
ゆくだろうと想像できます。
人は多分、言葉を介さず
心と心の直接のコミュニケーション
がごく当たり前になってゆくことは、ある意味で
すばらしいことです。
人類が個人の枠を超えて、
全体としてより大きな知性体となる可能性が
あるからです。
しかし、こういう進化の結果は、
創造的であると同時に
大変危険でもあります。
ガイアの一生は、
私たちの一生よりも遥かに長く、
既に30億年以上
この美しい姿のままで生き続けています。
私たちが生き続けるためには、
自分の一生だけでなく、
数百万年の単位で動いている
時間のことも学ばなければ
なりません。
私たちはどうあがいても、ガイアの大きな
生命の一部であり、
そのとてつもなくゆっくりとした
生命の時間に合わせて
生きざるを得ないのです。
その時間はあまりにも緩慢なので
私たちには意識するのが
大変難しい。
私たちの一生はあまりにも短いからです。
しかし、だからこそ私たちは、
目にみえない悠久の時の
流れがあることを
知らなければならないのです。
この地球上に初めての生命が誕生した頃、
「死」はまだ存在していませんでした。
バクテリアや小さな細胞は分裂こそすれ、寿命が
尽きて死ぬということはなかったのです。
事故で死なない限り、
彼らは永遠に生き続けました。
もちろんその頃はsexもありません。
生命がより複雑に高等になってゆくためには、
いくつかの要素が必要でした。
その第一番目が「死」です。それこそが、
未来と過去と違ったものになることを可能に
したのです。
過去の記憶が死に、全く独創的な
アイデアが生まれることを可能にしたのです。
sexの誕生もとても重要です。
それは、様々な困難な
問題の元凶でもありますが、同時に、
生命が大きく多様化してゆくことを可能にした
ものでもあるのです。オスとメスが生まれ、
それぞれ違った遺伝子を交換し、組み合わせることに
よって新しい生命を作るという仕組みは生命の進化の
速度を速め、新しい種の誕生する可能性を大いに
高めたのです。
地球上の生命がこれ程長く生きながらえて
来たのは、極めてヴァラエテイーに富んだ多様な種を
作って来たからで、もし多様化していなければ、
一度の大災害で全生命が絶滅していたでしょう。
私にとって、
多様性とは美とほとんど同じ意味なのです。
この地球がこんなにも美しいのは、生命の多様性の
おかげです。
生命は、根本的に、多様化しようとする
傾向があります。
環境の変化に柔軟に適応して
多様化するのです。宇宙に生命を拡げてゆくことは、
宇宙を多様化してゆくということでもあります。
そのためには、
宇宙環境に適応できる新しい生命体を
作ることも必要であり、それは可能なのです。
「死」があるということは、
とても幸運なことだと思います。
次の世代に生きる場を
明け渡すことができるからです。
なぜ絶望するのですか。
希望を失うのは馬鹿げています。
希望は本当に重要なものです。
もちろん美しいことだけを
期待すべきではありません。
世界は必ず悲劇的な側面を持っているし、
それが現実です。
しかし、悲劇的あるからこそ
希望もあるのです。
| フリーマン・ダイソン(宇宙物理学者) 1923年生まれ。弱冠24才の時、相対性理論と量子力学を統合する数式を発見、 若くしてプリンストン高等学術研究所の物理学教授となった。 科学、芸術、宗教、哲学等、あらゆる分野に深い造詣を持ち、人という種の未来について、 宇宙的な視野から語る事の出来る今世紀最大の叡知。 一人息子、ジョージは、アラスカ・アリュート族のカヌーを20世紀に復元した世界的に 有名な海洋カヤック・ビルダー。 16歳の時、父のもとを飛び出し大自然の中での生活を選んだ。 「ガイアシンフォニー第3番」での彼らの撮影は、21年前、その親子が劇的な和解を 果たした思い出の島、鬱蒼とした古代からの森に囲まれ、野生のオルカ達の集まってくる カナダ・ハンソン島で行われた。 |